第六回に登場する盗賊。五台山を追放されて東京へと向かう
魯智深は、その途上で打虎将の
李忠と再会するが、
李忠やその山賊仲間の小覇王の
周通が意外に「みみっちい」男であることを知ると山塞を下りてしまう。しかしいくらか行ったところで腹が減り、「瓦罐寺」という破れ寺で食物をわけてもらおうとする。だが、この寺には骨と皮ばかりになった老僧が幾人かいるだけで、食べ物はないという。二人の盗賊が住み着いてしまって、官憲の取り締まりも届かないというのだ。この盗賊というのが、生鉄仏の
崔道成である。もう一人は、飛天夜叉の
丘小乙というエセ道人。
魯智深は無論、二人を退治して食物にありつこうとするが、この
崔道成もさるものである。こちらは武器の用意もなく形勢不利と見るや言葉たくみに
魯智深を騙して追い返す。再び
魯智深がやってくると、今度は朴刀をもってまがりなりにも
魯智深と渡り合うばかりか、二人がかりとはいえ
魯智深を撃退するのである。結局は、逃げ出した
魯智深が九紋竜の
史進と偶然にも再会し、腹ごしらえを済ませて戻ってくると、腹一杯で元気な
魯智深と超強力助っ人・
史進の前にあっけなく敗れさるのだが。
何でまたこんな小悪党をここで取り上げたかというと、この場面、個人的に好きなのだ。
魯智深は水滸伝の好漢たちの中でも非常に人気が高く、作品を代表する豪傑であると言ってもよい。これがもし『三国志』なら、同じ立場にあるのは恐らく
関羽だろう。ところがこの二人、強いという以外全く似ていない。無論
関羽だって負けることはあるだろうが、その時
関羽はなんと言うだろうか。「無念であるが多勢に無勢、ここは一旦退くべし」てな感じか。少なくとも「こいつぁいけねえ、三十六計逃ぐるに如かずだ。すきっ腹を抱えて二人相手じゃあ勝ち目はねえや」とは言わないだろう。しかも助っ人として登場する
史進は、こともあろうに追いはぎとして
魯智深を狙うのだ。切り結ぶうちに気付いて「やや、
魯達どのではないか」「おう、お主は九紋竜・・・」ということになるわけだが、乞食坊主と追いはぎの組み合わせでは何ともなさけない。読者としては微笑ましい限りである。もちろん、当人たちにとっては死活問題なわけだが・・・。
『水滸伝』の面白さを象徴する場面、といったら言い過ぎだろうか?